はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

いにしえのハニートースト!?

如月まろん

 

 バブル真っただ中の90年代。社会人デビューの私は当時、夜な夜なディスコに通っていた。今でこそディスコと呼べる場所はなくなったが、当時はそれはもう煌びやかで絢爛豪華な大人の遊び場であった。
 社会人になり、友人にこの騒がしい場所に連れてこられた時は、正直度肝を抜かれた。ドレスコードがあったそこには、スーツでビシっと決めた大人が優雅にフロアで身体を揺らしている。踊り方なんてわからなかった私は、ビュッフェ式の食事フロアが目に入った。
 「まず何か食べたい・・」
 甘い香りに引き寄せられるミツバチの如くそこへ入っていくと、メニュー表が置いてあった。そこで私は運命の出会いをすることになる。
 “ハニートースト”
 食パン一斤丸ごとトーストしたものに切れ目を入れ、たっぷりのハチミツがかかっている。なかなか大胆なそれは、フロアの爆音をも耳に入らなくなるくらいすっかり魅了されてしまい、迷わずオーダーしてみる。
 「お待たせいたしました」
 クールな黒服の男性が、こんなにも甘いものを運んでくるのは何とも面白い光景だ。切れ目の入ったパンにフォークを刺すと、たっぷりのハチミツが滴る。
 「甘っ!美味しい・・・」
 こんがり焼けたトーストと甘いハチミツの香りがなんともいえず、体中からドーパミンが溢れていたことだろう。こんなパンチの効いた空間で、こんな甘いものが食べられようとは。私たちは夢中で無言のまま食べ続け、ぺろりと平らげてしまった。
 ふと見渡すと、先ほどまで髪をかき上げ優雅に踊っていたお姉様方も食べている。無表情で踊っていた人が少女のような表情で緩んでいるさまは、何とも言えない異空間に迷い込んだかのようだ。
 あれから数十年。バブルも弾け、携帯が普及しネット社会にどっぷり漬かっている昨今。未だにカフェやらでハニートーストを見かけることも多い。お店によっては「あの懐かしの」という枕詞がついてることも。もうすっかり昭和の産物なのかあ・・そう思いながら、周りを見ると、インスタ映えを意識した可愛らしいお嬢さんがハニートーストを撮っていた。自分に娘がいたらこのくらいか。もしかしたら、あの空間にいた誰かの子供かもしれない。今や世間では女性のメイクもファッションも様変わりしたが、何年経とうともハニートーストの甘く甘美な美味しさは変わらない。私もかくありたいものだ。

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

ニホンミツバチの蜂蜜

はちみつ家メニュー

鈴木養蜂場 はちみつ家/通販・販売サイト

Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.